Update Info

最終更新日:2019年10月28日

2019年10月28日

仏蘭西少女:我思う、故に我あり

※ストーリーの最後までネタバレあるのでご注意ください。

このブログで取り上げる題材として、私個人の大本命のひとつが「仏蘭西少女(ふらんすしょうじょ)」(2009年PIL)です。(例によって製品ページがもう存在しないので、Internet Archive経由のリンクです。)

原画がTony氏、シナリオの丸谷秀人氏の力の入った文章、純粋な内容の質という点では十分な良作に値すると私は思います。にも関わらず、実はこのゲーム、かつて2ちゃんねるのクソゲーオブザイヤーに入っていたのですが、私はさもありなんと考えます。なぜなら、この作品は多くの男性プレイヤー、とりわけ先の記事で取り上げた「立場の弱い女の子を支配下に置く」ことを求める人にとっては、絶対的に面白くない要素を含んでいるからです。男性向け18禁ゲームにも関わらず、このゲームはむしろフェミニズム的視点から論じられるべき面が大きい作品ではないかと、私は感じています。


「仏蘭西少女」は、大正時代が舞台のADVゲームです。同ブランドの過去作「女郎蜘蛛」と世界観が共通しており、同じキャラクターも登場します。(「仏蘭西少女」は「女郎蜘蛛」より半年前の物語です。)基本的に読み進めるだけのノベルですが、選択肢が非常に多く、最近の簡単なノベルゲームに慣れた人は面倒に感じるでしょう。分岐が複雑で自力で全エンディングを見るのは困難なため、公式から攻略法が提供されています。そうした面倒さも不人気の一因になってしまったのではと考えます。(私個人はその方がプレイしがいがあると思いますが。)

「仏蘭西少女」の主人公・矢旗澤政重は没落華族の末裔で、残されたのは荒れた屋敷と妹だけ、特権で居座っていた職も失う寸前。そんな時、旧友の死に際して遺産として一人の少女を譲り受けます。彼女は人間ではなく、ヨーロッパの上流階級の間で珍重される生きた愛玩人形でした。しかし、少女の生命を維持するには莫大な費用がかかるため、彼の人生を狂わせていくことになる…というあらましです。

物語は、この少女を含めた三人の女性が中心となって描かれています。主人公の義妹・香純と、死んだ旧友の姉にして現在は中国マフィアのボス・小田桐舞子。純粋無垢な仏蘭西少女を真ん中に、徹底的に従属する女性と、徹底的に自立した女性の対比が描かれています。この作品はこの三人の女性がメインであり、主人公はむしろ狂言回しのような存在に感じられます。

香純は屋敷の使用人(先代の妾)の娘であり、母親が死んだために主人公の母によって養子に迎えられました。しかし、小さい頃から主人公を慕っていた彼女にとって、それは望まない変化でした。仏蘭西少女に魅入られて莫大な借金を背負った主人公に対して、香純は自分の身を売ってまで尽くそうとします。

私はプレイしていてどうしても彼女がかわいそうになってしまい、結果なかなか他のエンディングが見られなかったりしました。どの段階で仏蘭西少女を手放す決意をするかによっても、いろいろ結末が変わります。選択によっては、香純に売春させてその金で飲んだくれる人間のクズとしか言いようのないエンドもありますが、二回以上は見たくないですね。

一方、舞子は主人公の家とも親しい華族の娘でしたが、借金の片に親に売られて、中国でパチモノ仏蘭西少女にされようとしていたところを脱走し、最終的にマフィアのボスにまで登りつめた壮絶な経歴があります。世間知らずだった昔とは正反対の毅然とした女性に成長した彼女。現在は主人公など問題にならない財力と権力を持っていますが、昔のよしみで彼と香純にはわりと気安く接してくれます。

男性向け18禁ゲームにおいては、こういう我の強い女性を屈服させる願望を持つプレイヤーも多いと思います。彼女のルートでは、精神的弱みを握り、追いつめて彼女を支配下に置くことを企てる主人公が描かれています。ところが、この手のゲームの通例ではあるまじきことに、最後までその企みは成就しません。しょせん、主人公程度のお坊ちゃんが彼女を支配しようなどというのは無理だったのでしょうが、そのつもりでプレイしていた人にとっては逆ギレしてもおかしくない気がします。

個人的には、彼女と普通に恋愛できるルートがほしかったと思いますが、しょせん主人公程度のお坊ちゃんが(以下略)。それに舞子には、イケメンの凄腕殺し屋が側近(兼愛人)についているので、とても太刀打ちできそうにないです。彼女の命の危機に際して、自分の命と引き換えに輸血するエンドが一番心が通じた感がありますが、主人公が彼女に対してできるのはそのへんが精一杯ということなのでしょう。

こうした香純との対照的な描かれ方は、さっきの表現を別の言葉で言い換えると、自ら人形になろうとする女と、かつて人形だった女との対比とも言えます。またこの対比が、そのまま彼女たちの仏蘭西少女への態度にも反映されており、主人公を奪う存在として嫉妬してしまう香純と、かつての自分を重ねて同情的な舞子という描写が見られます。

そして、文字通り「人形そのもの」である仏蘭西少女の方はどうかというと、自分を無条件で慕ってくれる金髪碧眼の幼い無垢な少女という、夢のような設定。というか、彼女はそうあるべく作られたのだから当然です。その反面、いつでも無条件に「ご主人様」を変えることができるのも、彼女がいかに都合のいい存在であるかを表しています。

そんな彼女のエンドの1つは、実は「自我の獲得」です。自分が何者にも支配されない独立した存在であると自覚すること。主人公は最終的に少女を手放さざるを得なくなりますが、彼女を人間として認めて接した場合に限り、彼女は「自分自身の意志」で主人公を選んでくれます。当初に想像できるものとは全く真逆の結末が提供されるわけです。

※このゲームではエンディングをトゥルーやグッド、バッドというような区分はしておらず、どれも等価であるとされています。しかしながら、到達するのが難しくまたテーマにも直結する前述のエンドを、私個人は仏蘭西少女のトゥルーエンドだと解釈しています。

この作品で表現される女性像は、やはり「頭のいい女性が好き」というシナリオの丸谷氏自身の好みが反映されているためだと思いますが、なおかつ私が感心するのは、彼の描く「聡明」が貞操とは無関係なところです(いわゆる処女信仰がない)。これは、彼の作品に共通する特徴でもあります。「仏蘭西少女」も、女性を自分の支配下に置くことがストーリーの基本ラインでありながら、実際には女性が自分の意志や選択を持つ人間であること(本来当たり前なのですが)を再認識させられる内容になっています。

しかし、異性愛者男性向け18禁ゲームというジャンルで、こういう趣向が一般的に好まれるか?といったら、微妙と言わざるを得ません。私個人は気に入っているのですが、女性を思い通りに支配したいという願望を満たしたい人にとっては不満でしょう。前述した舞子ルートは言うにおよばず、従属する女性として描かれている香純も、一歩間違えるとすごいヤンデレエンドがありますし、仏蘭西少女自身も最終的には何者にも支配されない道を選ぶことになります。

よって、この作品の本質はむしろ女性がプレイした方が正当に評価できるのではないかと考えますが、当然レイプや小さい女の子との性行為の描写があるので、そのままお薦めはしにくいです。けれども、もし前述のような理由でクソゲーと決めつけられてしまうのであれば、あまりにももったいないと思います。この作品の内容は男性向け18禁ゲームとしてよりも、純粋に映画や小説みたいな形で表現するほうがふさわしいかもしれません。

なお、姉妹作の「女郎蜘蛛」も暴力描写に耐えられる人ならお薦めです。(現在「女郎蜘蛛~真伝(まことがたり)~」というリメイク版がダウンロードで入手可能です。)こちらは荒縄を使った縛り調教のゲームです。「仏蘭西少女」の主人公は、お坊ちゃんだけあってヘタレなところがありましたが、こちらは主人公がより行動的で少女を救い出す立場になれるので、男性プレイヤーはこちらの方が好みだと思います。この作品のメインヒロインの北畠蝶子(きたばたけちょうこ)は性暴力含む苛烈な虐待被害者なのですが、彼女も非常に聡明な女性として描かれています(「仏蘭西少女」にも少しだけ登場します)。選択によっては自分自身が恐ろしい加害者となることもできますが、やはり私は彼女を助けるルートをつい何度もプレイしてしまいます。

「仏蘭西少女」と「女郎蜘蛛」は合わせて、私の中で歴代ベスト10に入るくらい傑出した作品だと今でも思っているのですが、賛同してくれる人はいるのだろうか。今後も丸谷秀人氏の作品を、私は密かに応援したいと思います。