何がメイドという属性をそんなに人気にしているのかというと、異性愛者の男性にとって究極の理想像といって過言でないと思われるからです。
1.主従の関係である(自分の立場が上)
2.よって、自分に奉仕すること(性的な奉仕含む)が使命である
3.かつ、母のような優しさ・包容力も兼ね備えている
これ以外の性格や容姿の好みは、人によって様々でしょうが、一般的に男性向け作品で描かれる「メイド」は、これが基本条件になっていると思います。改めて並べると都合のいいことこの上ない特徴ですが、日本のオタク界隈における「メイド」は、こうした理想像を一言で表せる便利な属性であると言えるでしょう。もう一つ付け加えるなら、メイドを雇える=金持ちというステータスを感じられる、という点もあると思います。
しかし言うまでもなく、こうした理想像として描かれている「メイド」は、史実のメイドの実態や時代背景からはかけ離れているものが大半です。私が考えるに、日本のマンガ・アニメ・ゲームの商業作品でちゃんとそのへんを考慮しているメイド作品は、「エマ」(森薫作・ビームコミックス)しか存在しないのではないでしょうか。私個人は、メイドは相応の世界観や背景を伴ってこそ意味があると考えているので、コスプレ的なメイドには批判的です。けれども、次に挙げる二作はそんなこだわりも納得させられました。
私自身はPC98時代のゲームには明るくないのですが、昔のコンプティークの特集記事で読んだ記憶だと、STUDiO B-ROOMの「殻の中の小鳥」がメイド物の元祖だと書かれてました。(後に続編の「雛鳥の囀」とのカップリングバージョンが発売され、私はこれをプレイしました。)この作品では、メイドは最初から「高級娼婦」という位置づけで、権力者の接待に使われる存在として主人公が調教するという設定でした。メイド=性的な奉仕をしてくれるという認識や、不幸な境遇といった現在のオタク界隈で共有されているメイドのイメージの原型は、ここから来ているのではないでしょうか。それだけなら18禁ゲームではありがちですが、この作品は舞台がイギリスで時代背景を考慮したものになっています。
個人的に気に入っているカップリングバージョンのタイトルバック。
横スクロールの影絵なのですが、鐘楼が横切る時だけ鐘の音が鳴る演出も良い。
調教はカードを使用したパズルっぽいシステムになっており、ゲーム性も高いです。調教なのでジャンル的には鬼畜物に入ると思うのですが、この作品の場合、私はそれほど下衆さは感じませんでした。主人公にとってメイドの調教はあくまで仕事であり、それとは別に彼女達と育む個人的な関係の方が見所であると思います。(それ自体がゲームならではのご都合主義だとわかっていても。)プレイする方も、非情に徹することができない切なさやジレンマを感じる作品でした。
メインヒロインの物静かな少女クレア。三人称の文学的なテキストも印象的。
もう1つの「Elysion~永遠のサンクチュアリ~」は、エルフの作品に参加していた原画家横田守氏の会社・テリオスが制作しているゲームです(DCにも移植されています)。テリオスからはコメディ物のゲームも発売されていますが、私は個人的に、横田氏の絵はダークな雰囲気の方が似合うと思います。それだけに、エリュシオンはベスト・マッチな感じ。メイド服も、このゲームではごくオーソドックスなデザインで好感が持てます。(余談ですが、私個人は制服系であまり改造したのはいただけません…。)
物語の主人公は、ドイツ在住の内科医・葛城遼一。訳あって挫折し、病院を退職して燻っていたところ、友人から仕事を紹介されます。それは、アドリア海の孤島に住む大富豪の老人の屋敷で主治医となることでした。訪れた古い洋館で、たくさんのメイド達が働いているのを目にする葛城。さらに彼は、メイドの中でも「特別」とされる四人の少女のうち、誰か一人を自分の専属として選ぶように命じられます。国際色豊かな四人のメイドさんはみんな魅力的だけれど、芝居のようなできすぎたお膳立てに、葛城は警戒せざるを得ません。彼が島に呼ばれた真の目的は何なのか?四人の少女がメイドである理由とは?様々な思惑と陰謀が錯綜する中、サスペンス風味のストーリーが展開します。
エリュシオンの攻略キャラはメインの四人の他にも存在し、意外に奥が深く広がりのある作品となっています。この作品はむしろ、メイド達をはじめとした屋敷を取り巻く人々の群集劇ともいえ、各シナリオには実にいろいろなテーマが取り上げられています。日本ではあまり耳にしない世界の社会問題も絡んでいて、特にラスト近くで攻略することになるみなし子の少女の事情にはちょっと言葉が出ませんでした。この作品は、世界情勢や文化を学ぶことへ興味を持つきっかけになると思います。
主要メイドの一人、大原魅麗(ミレイ)。作中、日本人は主人公とこの子だけで、
「日本人が他の外国人からどう見られているか」を描写している点も興味深い。
また、このゲームの数多くあるエンディングの中でもこだわりを感じられるのが、メインヒロイン達のハッピーエンドが恋人とメイドの2種類あることでしょう。しかも、メイドEDの方が条件が厳しいです。メイドの方がトゥルーエンド扱いということなんでしょうね。世の中にメイドさんが出てくるゲームは数あれど、その意味にまで言及しているものはそう多くありません。エリュシオンは、その点を非常に真摯に表現していると思います。(「メイド哲学」と言ってしまってもいいくらいでしょう。)それは史実のメイドとはまた違うものでしょうが、何事もつきつめればひとつの研究・学問になり得るという例だと私は考えます。
多分、今後もオタクコンテンツ界隈ではメイドさんは人気の属性であり続けると思いますし、好きであればそれをさらにつきつめるのも一興でしょう。もちろん、理想像として架空の娯楽を純粋に楽しむことも悪くありませんが、知的好奇心を掘り下げるアプローチこそ、オタクであることの醍醐味ではないでしょうか。そういう気を起こさせてくれるメイド作品を、これからも期待したいと思います。
※今回の紹介ゲームはいずれもすでに公式サイトのページがなくなっており、Internet Archive経由でも適切なものがみつからなかったので、リンクは割愛し自分で撮ったスクリーンショットを掲載します。(厳密には著作権法違反になってしまうと思いますが、昔のゲームで資料も容易に入手できないものについては致し方ないかと…。著作権者より申し入れがあった場合には対応いたします。)



